記録的な豪雨や熱波、干ばつなど、異常気象が世界中で起きている。原因の一つは、地球温暖化だと考えられており、温室効果ガスの排出を抑えるための脱炭素化は、グローバルな最重要課題だ。
脱炭素実現のため、再生可能エネルギーの「風力発電」は世界各地で導入が進む。その適地は、生物が多様で自然豊かな地域に多い。
日本最北端の北海道稚内(わっかない)市の人里近くの山林もその一つだ。
宗谷(そうや)湾に注ぐ2級河川「増幌(ますほろ)川」(23・6キロ)の中・上流域の西側、南北に約10キロ続く細い丘の上。2018年5月、最大地上高135メートルの風車10基、発電量3万キロワットの発電所が運転を開始した。
同じ丘では、さらに大型の風車10基(発電量4万2千キロワット、24年7月運転開始予定)の工事も続く。事業者の環境影響評価(環境アセス)ではさらに15基の建設を想定し、全部建てば計35基の巨大風車がひしめくことになる。
周辺には開拓地が広がり、川沿いにハンノキなどが繁る。毎年11月ごろになると、国の天然記念物の大型猛禽(もうきん)類、オオワシやオジロワシが飛来する。増幌川周辺では、何羽ものワシが枝にとまる木が見られる。たわわになった実のようにワシが見えることから、「ワシのなる木」と鳥類専門家らから呼ばれる。
ワシたちは一部を除き、ロシア・サハリン(樺太)方面から宗谷岬やその周辺を経て、海岸から10キロほど離れたこの丘の周辺に下り立つ。川を遡上(そじょう)してくるサケを捕らえやすいからだ。
観察を続けるNPO法人サロベツ・エコ・ネットワーク(北海道豊富(とよとみ)町)の長谷部真・事務局長によると、ワシは川が凍結してえさが捕れなくなる12月中下旬になると移動していなくなり、氷が解ける3月ごろに一部が戻ってくる。
増幌川は、国が治水などを目的に1965~2002年に河川改修事業を続けた半ば人工的な川で、周囲の土地も開拓事業などで切り開かれた。日本野鳥の会の浦達也・主任研究員が地元の人から聞いた話では、ワシが集まるようになったのは数十年前から。サケの孵化(ふか)放流事業などで川に戻るサケが増えたのが原因とみられる。
心配されるのが、風力発電の風車に衝突する「バードストライク」だ。
風力発電所の環境アセスでも…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル